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血管の複雑な形をAIで自動測定する新ツールを開発

    ―専門家なみの精度で、大量の顕微鏡画像を高速に解析―

    令和8年6月30日
    国立大学法人福井大学

    本研究成果のポイント

    ◆AI(深層学習)(注1)と画像処理、グラフ理論を組み合わせて、顕微鏡画像から血管の形を自動で計測するソフトウェア「PAVSAT(パブサット)」(注2)を開発した。

    ◆PAVSATは曲がった血管や太さの違いまで正確に捉え、専門家の手作業に近い精度で、はるかに速く大量の画像を解析できる。

    ◆誰でも使えるオープンソース(注3)のソフトウェアとして公開しており、血管の発生、がん、脳血管など幅広い研究への活用が期待される。

     

    概要

     血管は、酸素や栄養を全身の組織に届け、老廃物を回収する、生命の維持に欠かせないネットワークです。その形や枝分かれの様子、血管同士のつながり方を詳しく調べることは、血管がどのように造られ、がんや脳梗塞などの病気でどのように変化するのかを理解するうえで重要です。近年、顕微鏡技術の進歩によって、組織の奥深くにある血管まで鮮明に画像化できるようになりましたが、その画像から血管の形を数値として正確に測り取る解析技術は追いついておらず、多くは時間のかかる手作業に頼っていたため、測る人によるばらつきも課題となっていました。

     福井大学医学系部門医学領域の石田凌三学部生、木戸屋浩康教授らの研究グループは、AI(深層学習)と画像処理、グラフ理論(注4)を組み合わせ、顕微鏡画像から血管の形を自動で計測するソフトウェア「PAVSAT(パブサット)」を開発しました。曲がった血管や太さの変化まで捉え、専門家の手作業に近い精度で、高速に大量の画像を解析できます。本ツールは誰でも使えるオープンソースのソフトウェアとして公開されており、血管に関わるさまざまな研究を加速すると期待されます。

     

    〈研究の背景と経緯〉

     血管は生体にとって不可欠なネットワークであり、その形や枝分かれの様子、血管同士のつながり方を詳しく調べることは、血管が体の中でどのようにつくられ、また、がんの増殖や脳梗塞などの病気でどのように変化するのかを理解するうえで、たいへん重要な手がかりとなります。実際に、血管の微細な構造を数値で評価することは、病気の客観的な診断や、治療がどれだけ効いているかの判定にも役立つことがわかってきています。

     近年、二光子顕微鏡や光シート顕微鏡といった技術の進歩により、組織の奥深くにある血管まで鮮明に画像化できるようになりました。しかし、得られた画像から血管の形を数値として正確に測り取る「解析」の技術は、画像化の進歩に追いついていませんでした。その理由の一つが、血管の形の複雑さです。従来の解析方法の多くは、血管を「まっすぐで太さが一定の管」とみなして計算するため、実際の血管がもつ曲がりや太さの変化をうまく捉えられず、重要な情報が失われていました。また、手作業や半自動での計測に頼る方法も多く、時間がかかるうえ、測る人によって結果がばらつくという問題もありました。そのため、大量の画像を効率よく、客観的に解析できるツールが求められていました。

     

    〈研究の内容〉

     研究グループは、AI(深層学習)と画像処理、そしてグラフ理論を組み合わせた血管解析ソフトウェア「PAVSAT」を開発しました。解析は大きく四つの段階からなります。第一段階では、「YOLOv8」と呼ばれるAIを用いて、顕微鏡画像の中から血管の領域をすばやく抽出します。このAIには、血管を染色した多数の顕微鏡画像をあらかじめ学習させています。第二段階では、抽出した血管の中心を通る線(中心線)をたどりながら、枝分かれの位置を自動的に見つけ出します。第三段階では、血管が曲がっていてもその向きに合わせて垂直方向に太さを測ることで、曲がりや太さの変化を正確に捉えます。そして第四段階で、血管網を「節点(枝分かれ)」と「辺(血管の区間)」からなるネットワークとして表現し、血管のつながり方や階層構造といった、これまで難しかった高度な解析を可能にしました。

     さらに、大きな画像は細かなタイルに分けて処理しますが、その境目で血管を取りこぼしてしまう問題がありました。そこで、画像を少しずつ重ねながら処理する工夫を取り入れたところ、見逃す血管を大幅に減らすことができました。専門家による手作業の計測と比較したところ、PAVSATは血管の検出率91〜98%、太さの計測精度89〜93%(手作業との差が10ピクセル以内)という高い性能を示しました。自動計測と手作業のあいだに偏りはなく、強い一致(相関係数0.94以上)も認められました。専門家に近い精度を保ちながら、人手では現実的に不可能な規模の画像を高速に処理できる点が、本ツールの大きな特長です。

     

    〈今後の展開〉

     PAVSATは、プログラミング言語Pythonで動くオープンソースのソフトウェアとして公開されており、特別な装置がなくても多くの研究者が利用できます。血管は、体のあらゆる組織や病気に関わっています。そのため本ツールは、血管が新たにつくられる過程を調べる発生生物学、腫瘍に栄養を送る血管を解析するがん研究、脳の血管網と神経のはたらきの関係を調べる神経科学など、幅広い分野での活用が期待されます。客観的で再現性の高い解析が可能になることで、これまで手作業では難しかった大規模な研究も進めやすくなります。

     今後は、平面(二次元)の画像だけでなく立体(三次元)の解析への拡張や、少ない学習データでも新しい組織に対応できるようにする改良を進める予定です。画像化技術がさらに進歩するなかで、本ツールのような解析技術は、複雑な血管データから意味のある知見を引き出すために、ますます重要になると考えられます。

     

    〈参考図〉

    図1:開発した血管解析ソフトウェア「PAVSAT」の概要

    【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202606301743-O3-U05UbQ8w

    複雑な血管の画像を、PAVSATがAI解析によって血管の形や太さを数値化した客観的データへと自動変換して解析する。本ツールは、①AIによる血管領域の高速検出、②曲がった血管に対する精密な計測、③ラフ理論を用いた血管網のネットワーク化、の3段階からなる。専門家の手作業に近い精度を保ちながら、大量の画像を高速に解析できる点が特長である。

     

    〈用語解説〉

    (注1)深層学習(ディープラーニング):人間の脳の神経回路を模した「ニューラルネットワーク」を用いたAI(人工知能)の技術。大量のデータから特徴を自動的に学習し、画像認識などで高い性能を発揮する。

    (注2)PAVSAT(パブサット):本研究で開発した血管解析ソフトウェアの名称。Python-based Auto Vessel Segmentation Analysis Tool の略。

    (注3)オープンソース:ソフトウェアの設計図にあたるプログラム(ソースコード)を公開し、誰もが自由に利用・改変できるようにする仕組み。

    (注4)グラフ理論:点(節点)と、それらをつなぐ線(辺)の集まりとして物事のつながりを表し、その構造を解析する数学の一分野。本研究では血管の枝分かれを節点、血管の区間を辺として血管網を表現した。

     

    〈論文タイトル〉

    "PAVSAT: An Automated Blood Vessel Analysis Tool Using Deep Learning-Based Segmentation and Image Processing"

    (日本語タイトル:「PAVSAT:深層学習による領域抽出と画像処理を用いた血管自動解析ツール」)

     

    〈著者〉

    Ryozo Ishida, Naoi Hosoe, Anna Shimizu, Kazuhiro Takara, Yumiko Hayashi, Lamri Lynda, Hiroyasu Kidoya

     

    石田 凌三(福井大学 医学系部門医学領域 血管統御学 学部生)

    細江 尚唯(福井大学 医学系部門医学領域 血管統御学 大学院生)

    清水 杏奈(福井大学 医学系部門医学領域 血管統御学/耳鼻咽喉科・頭頸部外科学大学院生)

    高良 和宏(福井大学 医学系部門医学領域 血管統御学 助教)

    林 弓美子(福井大学 医学系部門医学領域 血管統御学 助教)

    ラムリ・リンダ(福井大学 医学系部門医学領域 血管統御学 助教)

    木戸屋 浩康(福井大学 医学系部門医学領域 血管統御学 教授)(責任著者)

     

    〈発表雑誌〉

    雑誌名「BMC Bioinformatics」

    (ビーエムシー・バイオインフォマティクス)

    (2026年6月22日に掲載)

    アブストラクトURL:https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/42332561/

    DOI番号:10.1186/s12859-026-06505-0

    情報提供