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血清アミロイドAを分解へ導く血液中のゴミ掃除輸送体を発見~難病AAアミロイドーシスなどの新しい治療の土台~

国立大学法人千葉大学
 千葉大学大学院理学研究院の板倉英祐教授らの研究グループは、血液中に存在するタンパク質GPLD1(注1)が、指定難病の一つAAアミロイドーシス(注2)の原因となる異常タンパク質「血清アミロイドA1(SAA1)」を直接捕らえて細胞の中のリソソーム(注3)まで運び、SAA1を分解へ導くスカベンジャーキャリア(ゴミ掃除輸送体)であることを明らかにしました(図)。これは、細胞外のタンパク質恒常性(プロテオスタシス)(注4)を維持するための新たな仕組みの発見です。本成果により、AAアミロイドーシスなどの難病の原因タンパク質SAA1を効率的に除去することが可能となり、疾患の予防や治療への応用が期待されます。
 この研究成果は、米国科学雑誌Life Science Allianceで2026年6月5日に公開されました。
(論文はこちら:10.26508/lsa.202603717)
 
図:GPLD1が血液中のSAA1や熱変性タンパク質を分解除去する流れ


■研究の背景
 私たちの体内で炎症が起きると、血液中には「血清アミロイドA1(SAA1)」というタンパク質が急激に増加します。本来は生体防御に関わるこのタンパク質も、慢性的な炎症時に過剰蓄積してしまうと「異常タンパク質」へと変貌し、全身の臓器にこびりついて重篤な不全を引き起こす「AAアミロイドーシス」という難病の原因物質となります。
 これまで、こうした「細胞の外側に溜まったタンパク質のゴミ」を、体がどのように認識して片付けているのかという根本的な仕組みは大きな謎に包まれてきました。この「掃除のメカニズム」を明らかにすることは、長年治療が困難とされてきたAAアミロイドーシス克服への不可欠なステップとなります。

■研究の成果
 本研究グループは、血液中で増えたSAA1を分解へ導く「掃除屋」となる因子を特定するため、SAA1と直接結合するタンパク質を探索しました。その結果、血液中に存在する「GPLD1」というタンパク質がSAA1と特異的に結合することを発見しました。
 GPLD1の役割を詳しく解析するため、本研究では独自の「取込みアッセイ法(注5)」を利用しました。GPLD1は、細胞外でSAA1と複合体を形成したあと、細胞内へと取り込まれ、細胞内の分解工場である「リソソーム」へと運ばれてSAA1の分解を促進する、いわば「ゴミを回収して処分する」役割を担うことを突き止めました。これまでGPLD1は、タンパク質をつなぐ脂質の紐「GPIアンカー型膜タンパク質」の切断酵素、つまり「紐を切るだけのハサミ」として知られていました。今回の発見は、この役割とは異なる新しい機能です。
 本研究グループはこれまでの研究において、別の「ゴミ掃除輸送体」である「Clusterin」や「α2-マクログロブリン」の存在を明らかにしてきました参考文献)。今回、GPLD1とClusterinの役割の違いを調査したところ、両者はともに熱変性したタンパク質を分解へ導く一方で、SAA1はGPLD1のみによって分解されることが判明しました。一方で、アルツハイマー病の原因となるアミロイドβはClusterinによってのみ分解され、GPLD1は関与しないことも明らかになりました。

■研究者のコメント
 これまで発見したClusterinやα2-マクログロブリンに続き、本研究によってGPLD1が第三の『血液内のゴミ掃除輸送体』であり、特にSAA1を標的として分解へ導く重要な役割を担っていることが判明しました。細胞外の『タンパク質のゴミ』と一口に言っても、その種類や性質は千差万別です。今回のように、体内をきれいにする仕組みを一つずつ解明していくことで、疾患の原因となる特定の異常タンパク質のみを選択的に除去し、副作用の少ない新しい治療法の確立に貢献したいと考えています。

■用語解説
注1)GPLD1:Glycosylphosphatidylinositol-specific phospholipase D1(GPLD1)。主に肝臓で生産され、血漿(けっしょう)中に存在するタンパク質。細胞表面に結合している「GPIアンカー型膜タンパク質」を切断する働きのある酵素として知られている。
注2)AAアミロイドーシス:慢性的な炎症に随伴して発症する全身性アミロイドーシスの一種である難病。原因タンパク質「アミロイドA」が線維状に変化して全身の臓器に沈着し、機能障害を引き起こす。
注3)リソソーム:細胞内に存在する細胞小器官の一つ。不要になったタンパク質を分解・処理する役割をもつ。
注4)タンパク質恒常性(プロテオスタシス): 生体内でタンパク質が正常な状態を保つための仕組み。不要になったり異常になったりしたタンパク質を分解・除去することで、生体の正常な機能を維持している。
注5)取込みアッセイ法:蛍光を付加した細胞外タンパク質を細胞が取込み、リソソームに蓄積した蛍光タンパク質量をフローサイトメーター(自動細胞解析分離装置)によって定量解析する手法。

■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の支援を受けて実施されました。
【科学技術振興機構(JST)】創発的研究支援事業 JPMJFR204N
【日本学術振興会(JSPS)】科研費 学術変革領域研究 (A) JP23H04932、基盤研究 (B) JP24K02018、JP20H03249、新学術領域研究 (研究領域提案型)  JP22H04634、J-PEAKS JPJS00420230002

■論文情報
タイトル:GPLD1 is as a scavenger carrier mediating lysosomal degradation of extracellular aberrant proteins
著者:Mizuki Tsuchiya, Yoichiro Yagishita, Eisuke Itakura
掲載誌名:Life Science Alliance
DOI:10.26508/lsa.202603717

■参考文献
2020年2月12日公開プレスリリース「細胞外異常タンパク質の除去システムを発見」
2023年3月28日公開プレスリリース「α2マクログロブリンが変性タンパク質を分解する役割を発見」
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