国立大学法人千葉大学
千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程2年の奥山登啓氏と同大学国際高等研究基幹の佐藤大気特任助教、同大学大学院理学研究院の高橋佑磨教授の研究グループは、約80種類のキイロショウジョウバエ系統(注1)の成虫を対象に、集団になることや多様な個性が集まることが探索と警戒のトレードオフ(注2)に与える影響を調べました。その結果、同じ個性の個体が集まる集団では、「探索を積極的に行うほど警戒が疎かになる」というトレードオフが現れました。一方で、個体間で個性に多様性のある集団では、このトレードオフ関係を部分的に克服し、探索と警戒の両立性を高めることが示されました。
本研究成果は、2026年6月8日(JST)に、国際学術誌iScienceで公開されました。
(論文はこちら:10.1016/j.isci.2026.116171)

■研究の背景
あちらを立てればこちらが立たず。動物は、餌を探索して動くほど天敵への警戒が疎かになり、天敵を警戒してばかりでは餌の探索が疎かになるというトレードオフを抱えて生きています。群れることで効率よく探索できることや捕食者を効果的に回避できることは独立に報告されていますが、群れ行動がトレードオフに与える影響は不明でした(図1)。
■研究の成果
本研究では、キイロショウジョウバエについて、形態や行動などの個性が異なる約80種類の系統を用意し、集団の組成を人為的に操作した以下の条件で、探索行動と警戒行動をそれぞれ測定しました。
単独個体:各系統の1個体の単独条件
画一集団:同じ系統の6個体からなる個性が画一な集団条件
多様集団:2つの系統の3個体ずつからなる個性に多様性のある条件
1.解析の結果、単独個体では探索も警戒も程度が低く、トレードオフ関係は現れなかったが、画一集団ではパフォーマンスが向上し、探索-警戒トレードオフが顕在化した。すなわち、探索を積極的に行う集団では警戒が疎かになるパターンが認められた。
2.多様集団では探索と警戒の両立性が高まり、画一集団で現れたトレードオフ関係を改善する傾向が示された(図2)。
3.多様性に伴うトレードオフの改善のメカニズムに迫るため、膨大な形質データを用いた解析PheHAS(注3)を実施したところ、個体間の活動性の多様性が、探索と警戒の両立に寄与することがわかった。
これらの成果は、動物の行動を一般に制約するトレードオフが、多様性によって改善・緩和される可能性を示しており、貴重な研究例となりました。

■今後の展望(研究者コメント)
本研究は、多様な個性を含む集団では二律背反的な状況を克服できる可能性を示しており、「多様性とイノベーション」の関係の理解に貢献するものと期待されます。今後は、探索と警戒以外の行動にも着目し、生物の多様性が身近なジレンマをどのように克服しているかを調べることで、集団における多様性の機能やその活用方法を明らかにしたいです。
■用語解説
注1)系統:野外で採集された1個体(雌)の子孫同⼠で交配を繰り返して維持された交配集団のこと。各系統は1個体の雌に由来しているため、その雌の遺伝的特徴や表現型を維持していると考えられる。同じ系統の個体どうしは遺伝的なばらつきが限りなく小さく、クローン個体とみなせる。
注2)トレードオフ:あるひとつの要素を増やすと、同時に別の要素が失われてしまう関係のこと。生態学では主に分配トレードオフと獲得トレードオフの2種類に大別される。前者は有限の資源を分配する際に生じるジレンマであり、寿命と繁殖などがこれに該当する。一方、本研究で扱った探索-警戒トレードオフは後者に分類され、資源を最大化するための行動が、別な文脈で不利益を生じるような関係を指す。
注3)PheHAS:Phenome-wide Higher-level Association Studyの略で、集団レベルの現象(e.g. トレードオフの改善)と、その集団を構成する個体間の変異(e.g. 形質距離)の関係を網羅的に調べる解析手法のこと。本研究ではこの解析により、ハエの運動特性や形態情報など約190種類の形質データについて、探索-警戒トレードオフの改善に寄与する個体間の変異を調べた。
■論文情報
タイトル:Genetic heterogeneity alleviates behavioral trade-off between exploration and vigilance in Drosophila
著者:Takahira Okuyama, Daiki X. Sato and Yuma Takahashi
雑誌名:iScience
DOI:10.1016/j.isci.2026.116171
■参考文献1)
タイトル:Big houses, big cars, superfleas and the costs of reproduction
雑誌名:Trends in Ecology & Evolution
DOI:10.1016/S0169-5347(00)01941-8
■参考文献2)
タイトル:Genetic heterogeneity induces non-additive behavioural changes in Drosophila
雑誌名:Journal of Experimental Biology
DOI:10.1242/jeb.249449
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の助成金の支援を受けて遂行されました。
・科学研究費助成事業「天邪鬼行動が集団に及ぼす社会的・生態学的影響とその遺伝基盤」(JP23H03840)
・科学研究費助成事業「個体の不均一性がもたらす集団行動の多機能性:集団行動の高次遺伝基盤と制御」(JP22H05646)
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千葉大学大学院融合理工学府博士後期課程2年の奥山登啓氏と同大学国際高等研究基幹の佐藤大気特任助教、同大学大学院理学研究院の高橋佑磨教授の研究グループは、約80種類のキイロショウジョウバエ系統(注1)の成虫を対象に、集団になることや多様な個性が集まることが探索と警戒のトレードオフ(注2)に与える影響を調べました。その結果、同じ個性の個体が集まる集団では、「探索を積極的に行うほど警戒が疎かになる」というトレードオフが現れました。一方で、個体間で個性に多様性のある集団では、このトレードオフ関係を部分的に克服し、探索と警戒の両立性を高めることが示されました。
本研究成果は、2026年6月8日(JST)に、国際学術誌iScienceで公開されました。
(論文はこちら:10.1016/j.isci.2026.116171)

■研究の背景
あちらを立てればこちらが立たず。動物は、餌を探索して動くほど天敵への警戒が疎かになり、天敵を警戒してばかりでは餌の探索が疎かになるというトレードオフを抱えて生きています。群れることで効率よく探索できることや捕食者を効果的に回避できることは独立に報告されていますが、群れ行動がトレードオフに与える影響は不明でした(図1)。
■研究の成果
本研究では、キイロショウジョウバエについて、形態や行動などの個性が異なる約80種類の系統を用意し、集団の組成を人為的に操作した以下の条件で、探索行動と警戒行動をそれぞれ測定しました。
単独個体:各系統の1個体の単独条件
画一集団:同じ系統の6個体からなる個性が画一な集団条件
多様集団:2つの系統の3個体ずつからなる個性に多様性のある条件
1.解析の結果、単独個体では探索も警戒も程度が低く、トレードオフ関係は現れなかったが、画一集団ではパフォーマンスが向上し、探索-警戒トレードオフが顕在化した。すなわち、探索を積極的に行う集団では警戒が疎かになるパターンが認められた。
2.多様集団では探索と警戒の両立性が高まり、画一集団で現れたトレードオフ関係を改善する傾向が示された(図2)。
3.多様性に伴うトレードオフの改善のメカニズムに迫るため、膨大な形質データを用いた解析PheHAS(注3)を実施したところ、個体間の活動性の多様性が、探索と警戒の両立に寄与することがわかった。
これらの成果は、動物の行動を一般に制約するトレードオフが、多様性によって改善・緩和される可能性を示しており、貴重な研究例となりました。

■今後の展望(研究者コメント)
本研究は、多様な個性を含む集団では二律背反的な状況を克服できる可能性を示しており、「多様性とイノベーション」の関係の理解に貢献するものと期待されます。今後は、探索と警戒以外の行動にも着目し、生物の多様性が身近なジレンマをどのように克服しているかを調べることで、集団における多様性の機能やその活用方法を明らかにしたいです。
■用語解説
注1)系統:野外で採集された1個体(雌)の子孫同⼠で交配を繰り返して維持された交配集団のこと。各系統は1個体の雌に由来しているため、その雌の遺伝的特徴や表現型を維持していると考えられる。同じ系統の個体どうしは遺伝的なばらつきが限りなく小さく、クローン個体とみなせる。
注2)トレードオフ:あるひとつの要素を増やすと、同時に別の要素が失われてしまう関係のこと。生態学では主に分配トレードオフと獲得トレードオフの2種類に大別される。前者は有限の資源を分配する際に生じるジレンマであり、寿命と繁殖などがこれに該当する。一方、本研究で扱った探索-警戒トレードオフは後者に分類され、資源を最大化するための行動が、別な文脈で不利益を生じるような関係を指す。
注3)PheHAS:Phenome-wide Higher-level Association Studyの略で、集団レベルの現象(e.g. トレードオフの改善)と、その集団を構成する個体間の変異(e.g. 形質距離)の関係を網羅的に調べる解析手法のこと。本研究ではこの解析により、ハエの運動特性や形態情報など約190種類の形質データについて、探索-警戒トレードオフの改善に寄与する個体間の変異を調べた。
■論文情報
タイトル:Genetic heterogeneity alleviates behavioral trade-off between exploration and vigilance in Drosophila
著者:Takahira Okuyama, Daiki X. Sato and Yuma Takahashi
雑誌名:iScience
DOI:10.1016/j.isci.2026.116171
■参考文献1)
タイトル:Big houses, big cars, superfleas and the costs of reproduction
雑誌名:Trends in Ecology & Evolution
DOI:10.1016/S0169-5347(00)01941-8
■参考文献2)
タイトル:Genetic heterogeneity induces non-additive behavioural changes in Drosophila
雑誌名:Journal of Experimental Biology
DOI:10.1242/jeb.249449
■研究プロジェクトについて
本研究は、以下の助成金の支援を受けて遂行されました。
・科学研究費助成事業「天邪鬼行動が集団に及ぼす社会的・生態学的影響とその遺伝基盤」(JP23H03840)
・科学研究費助成事業「個体の不均一性がもたらす集団行動の多機能性:集団行動の高次遺伝基盤と制御」(JP22H05646)
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